反撃に対する再反撃は正当防衛ではない、という最高裁判決

 自分がきっかけをつくったけんかで傷害罪に問われた被告が、「正当防衛が成立し、無罪だ」と主張した刑事事件の上告審決定で、最高裁第二小法廷(古田佑紀裁判長)は「自らの不正行為により結果を招いた場合には、正当防衛には当たらない」とする初めての判断を示した。

http://www.asahi.com/national/update/0522/TKY200805220089.html

判決文によると、事実関係は

  1. 徒歩でゴミ捨て場を通りかかったAは、不審そうな人(以下B)を発見し、口論に
  2. Aはグーで1発殴って逃走
  3. Bは自転車で被告人を追いかけ、90mほどで追いつき、自転車に乗ったままAをラリアット、A転倒
  4. 起き上がったAは持っていた特殊警棒でBを殴る。B全治3週間。

こんな感じ。で、(4)のAの行為は正当防衛に当たるかが争われた裁判。最高裁の判断は上の通り。
ちなみに正当防衛は刑法で

第36条 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
2 防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。

このように規定されている。

A視点で見ると、90mも逃げれば逃げ切った感じ(しかも1回曲がっているし)だろう。それが全速力の自転車にラリアットされたのだから、そもそも当初Bを不審者だと思っていたAからすれば、これはヤバいってことで、とっさに護身用に持っていた特殊警棒で殴るってのは大いに考えうると思う。

きっかけが自分の暴行である場合はどんなに反撃が激しくても自己の身を守ってはいけない、というのは正当防衛の趣旨と違うと思う。正当防衛は「殴られたから殴り返してもいい」というようなものではなく、自分の身に危険が迫っているときには、正常な遵法意識なんか吹き飛んでしまうのが生物として当然だから、それに対して法的責任を問うたりはできない、あるいは軽減されるという趣旨のはずだ。
そうであるならば、上記(3)の行為が急迫不正の侵害であるかどうかを考えるときに原因である(2)の行為を持ち出すのはおかしい。あくまで(3)単品で考えなければならない、と私は考える。

蛇足だが、上で引用した朝日の記事中の

 裁判員制度が始まったときに市民裁判員が判断に悩まなくてもいいような基準の一つになるとみられる。

プロが定めた基準に則って「悩まな」いで裁判するんだったら、裁判員制度要らないんでは?