確定判決が出るまで拘束されたりしないって、普通

「有罪率99%」という言葉の意味 - 弁護士兼務取締役の独り言
を読んで。

拘束するには条件がある

そもそも、逮捕されてから起訴、公判、判決にいたるまで被疑者は拘束されているもの、と思い込んでいる人が少なくない。ローである元エントリさんはそんなこと先刻承知で…

起訴されると、今度は確定判決が出るまで勾留されるので、2ヶ月から数年間身柄を拘束されることになります。

えーーっ!

刑事訴訟法 60条1項

裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。
一  被告人が定まつた住居を有しないとき。
二  被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
三  被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。

つまり、そもそも帰るところがないとか、証拠隠滅しそうとか、帰したら逃げちゃいそうとか、帰しちゃまずい事情があるときでないと、拘束してはいけないという建前になっている。実際、身柄を拘束したまま公判している事件はそう多くない(2006年の身柄事件率は30.0%。平成19年版 犯罪白書のあらましより)というデータもある。

「2ヶ月から数年間身柄を拘束されることになります」についても。

刑事訴訟法 60条2項

勾留の期間は、公訴の提起があつた日から二箇月とする。特に継続の必要がある場合においては、具体的にその理由を附した決定で、一箇月ごとにこれを更新することができる。但し、第八十九条第一号*1、第三号*2、第四号*3又は第六号*4にあたる場合を除いては、更新は、一回に限るものとする。

原則2ヶ月以内に釈放しないといけない。
無期限に更新できるのは重大事件のとき、それも「特に継続の必要がある場合」のみ。そして、そもそも数年間も公判が続くなんてのが相当レアケース(テレビ見てるとよくあるように感じるが、あれはむしろ珍しいからテレビネタになってる、と考えるべき)。

というわけで、起訴されてもずーっと拘束されているわけではない(普通。拘束され続ける人も中にはいる。)ということが確認できたところで。

なぜ有罪率が99%なのか?

答えは簡単。検察官がほぼ確実に有罪になる被疑者しか起訴していないからです。

検察が「勝てる」ときしか起訴しないから、という意味であれば明確に間違い。そうでなければごめんなさい。

平成19年版 犯罪白書を基に作成。

a 検察庁終局処理人員 2076777 100.0%
b 公判請求 138029 6.6%
c 略式命令請求 660101 31.8%
d 起訴猶予 991401 47.7%
e その他の不起訴 92637 4.5%
f 家裁送致 194609 9.4%

不起訴率というのは上の表でいう (d + e) / a のことだが、この「起訴猶予」というのは、明らかに有罪だけど今回は目をつぶってやる、というものだ。たとえば「泥酔して公園で全裸で遊んでいたが、今は深く反省しているようだ。初犯だし、被害者もいない」ような場合に起訴猶予処分となることが考えられる。
そして「その他の不起訴」だが、証拠が揃わないなど、検察が勝てないかもと思って不起訴にする「嫌疑不十分」のほかに「親告罪の告訴取り下げ」「心神喪失」などがある。この内訳も上でリンクした犯罪白書にあるので、興味のある方は。
話を戻して、上の表を見れば分かるように、高い不起訴率を支えているのは警察の「誤認逮捕」ではなく、主に検察によるお目こぼし、「起訴猶予」である*5。が、いずれにせよ

無罪率が高ければ高いほど、その分無駄に取り扱う件数が増え、裁判所がパンクしてしまうし(今でも裁判官の数が足りないのに・・・)、身体の自由という重大な人権を侵害される人の数もその程度も増加してしまうということです。

これは言えると思う。何でもかんでも起訴したのでは現実問題リソースが足りない。裁判所に到達する前に検察というフィルタを挟むことによって、確かに無駄な裁判は減っているだろう。


ただ、それは正しくない、と私は考える。それでは検察が第0審となってしまう(そして「上級」審はろくに見ない)。裁判は公開でなければならない。取調べは不可視、不利な証拠は表に出さない、半ば自動的に延びる勾留期限(H.18、裁判官による勾留請求却下は0.4%)。←「これは最初の検察官の勾留請求の話であって、勾留の延長の話ではない。」とコメントにてご指摘いただきました。
「判決が確定するまで2ヶ月〜数年間身柄を拘束される」というのは上で示したとおり誤っているが、警察・検察が自白を強要したり、調書を無理やり取ったりするときに、このように被疑者を脅すという現実がある。
これがまともな司法であるとは、私にはとても思えない。起訴便宜主義はやめるべきで、有罪率をもっと落とせば、逮捕、起訴をもって被疑者を犯罪者視するという主権者の誤った認識が減るので、検察も安心して?きわどい案件も起訴できるので、司法が正常に機能するようになると思う。

*1:被告人が死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。

*2:被告人が常習として長期三年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。

*3:被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。

*4:被告人の氏名又は住居が分からないとき。

*5:実際には「嫌疑不十分」とすべき事案を「起訴猶予」にしてしまったりする例もあるようなので、白書を信じるとすれば、だが。