「胸ぐらをつかんで壁に押し付けて怒鳴る」は体罰ではない
熊本体罰訴訟(通称がない?)の最高裁判決
全文。興味のある方はぜひ。
一応まとめ
- 教員。3年生の担任。(報道によれば20代。)身長167cm。
- 小学2年生。身長130cm。
- 互いに面識はない。
- 教員は小3をなだめていたところ、小2がじゃれてきたので、振りほどいた。
- 小2は通りかかった小6女数人を蹴り始めた(本気ではない)ので、教員は小2に注意した。
- 教員がその場を去ろうとすると、小2が後ろから尻を蹴って逃げた。
- 教員怒る。小2を追い掛けて捕まえ、胸ぐらをつかんで壁に押し当て、大声で「もう、すんなよ。」と叱った。
- 小2PTSD。親訴える。
体罰禁止規定
体罰は、学校教育法第11条によって
校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない。
このように禁止されているのだが、罰則規定がないだけでなく、そもそも何が体罰なのかという定義自体、何もない。それで「懲戒」と「体罰」の境界線がずっと問題となっていて、教員の皆さんは大変だろうなあと思う。こういうことはケースバイケースなので杓子定規に決められないとは思うが、いいにしても悪いにしてもある程度は決めておくべきで、これは立法の怠慢であると言わざるを得ない。これでは誰も守られない。訴追リスクのある教員も、体罰を受けるリスクのある子どもも。教員からしたら訴追を恐れて安全なほうに倒すし、たまに「そういう」信念を持つ教員が何かやらかしても「これは教育上必要な懲戒だった」と教委は居直る。
最高裁の判断
A(教員)の本件行為は,児童の身体に対する有形力の行使ではあるが,他人を蹴るという被上告人(小2)の一連の悪ふざけについて,これからはそのような悪ふざけをしないように被上告人を指導するために行われたものであり,悪ふざけの罰として被上告人に肉体的苦痛を与えるために行われたものではないことが明らかである。
Aは,自分自身も被上告人による悪ふざけの対象となったことに立腹して本件行為を行っており,本件行為にやや穏当を欠くところがなかったとはいえないとしても,本件行為は,その目的,態様,継続時間等から判断して,教員が児童に対して行うことが許される教育的指導の範囲を逸脱するものではなく,学校教育法11条ただし書にいう体罰に該当するものではないというべきである。したがって,Aのした本件行為に違法性は認められない。※カッコ内は引用者が付け足した。
今回の最高裁判決は、体罰とは「罰として被上告人に肉体的苦痛を与えるために行われたもの」で「その目的,態様,継続時間等から判断して,教員が児童に対して行うことが許される教育的指導の範囲を逸脱するものではな」いものであると示したようだ。
私の(半分は想像に基づく)意見
行為部分を引用する。
Aは,これに立腹して被上告人を追い掛けて捕まえ,被上告人の胸元の洋服を右手でつかんで壁に押し当て,大声で「もう,すんなよ。」と叱った
これは体罰ではないと思う。正確には、体罰ですらない。体罰は罰なので、あくまで教育的指導の延長線上だ。これは懲戒と体罰の境界事例でも何でもなく、単なる暴行(もしくは傷害)じゃない?と思う。
どう見てもプチッときてやってるでしょ。この子を教育的に指導しようとか、瞬間的にはそんなこと関係なくて、カッとなってやってる。たぶん顔はものすごい近いはず(想像)。
原審は
胸元をつかむという行為は,けんか闘争の際にしばしば見られる不穏当な行為であり,…社会通念に照らし教育的指導の範囲を逸脱する
としているようで、こちらのほうが納得できる。