無戸籍の子には住民票を作成しなくていい、という最高裁判決

事実婚夫婦の敗訴確定=無戸籍婚外子の住民票訴訟−区の作成義務認めず・最高裁

 子供の出生届に「非嫡出子(婚外子)」と記載するのを拒否して出生届を受理されなかった事実婚の夫婦らが、東京都世田谷区に住民票作成などを求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第二小法廷(今井功裁判長)は17日、区の作成義務を認めず、原告側の請求を退けた。夫婦らの敗訴が確定した。
 訴えていたのは、介護福祉士の菅原和之さん(44)夫婦と次女(4つ)。菅原さんは次女の出生届を出した際、続き柄の欄に「嫡出でない子」と表記することを拒否。このため区は受理せず、住民票も作成されなかった。
 同小法廷はまず、出生届を出さないやむを得ない理由や、住民票が作成されないことによって子供が重大な不利益を被るなどの特別の事情がある場合には、区は住民票を作成しなければならないとの初判断を示した。
 その上で、菅原さんの次女は未成年のため、選挙人名簿に登録されない不利益はなく、手続きをすれば通常の行政サービスも受けられると指摘し、「特別の事情」には当たらないと判断した。(2009/04/17-17:06)

住民票が作成されなかった理由

婚姻届を役所に出し、役所がこれを受理することによって法律上の婚姻、法律婚が成立する。この届出をしていない、事実上の婚姻状態を「事実婚」という。
この事実上の夫婦の間に生まれた子のことを「非嫡出子」(法律上は「嫡出でない子」)という。非嫡出子であることによる法律上の不利益といえば法定相続分ぐらい。ただし非嫡出子を差別するような手合いはいまだにいるらしいので、社会的な不利益は少なくないのかもしれない。

出生届には子の名前など、いろいろ記載するところがあり、その中に「父母との続柄」欄がある。ここに「嫡出子」「嫡出でない子」というチェック欄(か、もしくは記入欄)がある。夫婦はこの欄を差別記載であるとして、記入を拒んだ。役所は出生届に不備があるので不受理となった*1

で、後日、子の住民票を作成しに行ったところ、(出生届が出ていないから)戸籍がないので、住民票は作成できないと言われた。

住民票が作成されないことによる不利益

上の記事では、「選挙人名簿への登録」が挙げられているが、それだけではない。

に支障をきたす。上の記事によれば「手続きをすれば通常の行政サービスも受けられる」とされているが、例えば住民登録のない子の就学は各自治体の裁量で、言い換えれば温情で認められているに過ぎない。

その上で、今回の最高裁判決について

最初に断っておくが、判決文はまだ読んでいない(ちょっとググった限りでは見当たらない。知っている方は教えていただけると嬉しいです)。

判決には失望した。
「嫡出子又は嫡出でない子の別」を書かせるのは前時代的であり、戸籍法49条2項1号*2は即時撤廃すべき(いや本当は戸籍法自体を撤廃すべきと言いたいんだけど、そこまで拡げると大きくなりすぎるので今日は絞ります)。

「手続きをすれば通常の行政サービスも受けられる」(=だから権利を制限してもいい)というのもおかしい。基本的人権というのは「代替手段があるなら制限してもいい」ようなものではない。「代替手段のないときだけ制限してもいい」ものなのだ。


で、百歩譲って出生届の不備を理由に受理を拒んだ区の対応がとりあえずは間違っていなかったとして、
千歩譲って無戸籍児の住民登録を拒んだ区の対応も、またとりあえずは間違っていなかったとして、
一万歩譲ってこの親がDQNであるとしてだ。


子どもには関係ないだろ。

子どもは親を選べない。親の思想信条を理由に子どもが不利益を受けるような社会はどう見てもおかしい。


参考:原告サイト
http://homepage3.nifty.com/k_sugawara/index.html

*1:役所は、記載事項に不備がない限り届出を受理しなければならない。行政手続法37条

*2:戸籍法49条「出生の届出は、十四日以内(国外で出生があつたときは、三箇月以内)にこれをしなければならない。」同2項「届書には、次の事項を記載しなければならない。 」同1号「子の男女の別及び嫡出子又は嫡出でない子の別」