北朝鮮の「ミサイル発射」に対して怒りのマスゲーム

4月5日に北朝鮮が何かを打ち上げた件に関して。

「国連安保理決議違反」とは

テレビニュースを何本か見たが、どの国連安保理決議のどこに違反しているのか説明してくれるものがなかった(言うまでもなく、私が見た限りで)。そこでちょっとググってみた。

国連安保理決議1718・外務省訳
これは北朝鮮の核実験(2006.10.9)に対する非難・制裁決議である。この中で、今回の「違反」に該当しそうなのは

  • 「2 北朝鮮に対し、いかなる核実験又は弾道ミサイルの発射もこれ以上実施しないことを要求する。」
  • 「5 北朝鮮が、弾道ミサイル計画に関連するすべての活動を停止し、かつ、この文脈において、ミサイル発射モラトリアムに係る既存の約束を再度確認することを決定する。」
  • 「7 また、北朝鮮が、その他の既存の大量破壊兵器及び弾道ミサイル計画を、完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な方法で放棄することを決定する。」

こんなところか。でも今回は核実験ではないので、持ち出すならこちらのほうが適当かと思う。
国連安保理決議1695・外務省訳
これは北朝鮮のミサイル発射実験(2006.7.5)に対する非難決議であり、「北朝鮮が、弾道ミサイル計画に関連するすべての活動を停止し、かつ、この文脈において、ミサイル発射モラトリアムに係る既存の約束を再度確認することを要求する」ものである。

今回の決議の行方。日米v.s.中ロという構図は正しいのか

【北ミサイル発射】中ロが鍵、着地点見えず 初日は腹の探り合い
これもテレビを見ている限りでは決議に積極姿勢の日米、消極あるいは慎重姿勢の中ロという構図で語られているが、本当なのか。
【北ミサイル】先端部は人工衛星搭載用か ロイター通信が報じる
ミサイルの形状とかの話は全然分からないので全面的にロイター→産経を信用すると、これはミサイルではないというかなり確度の高い情報を、少なくともアメリカは先月末の時点で把握しているのではないか。それで、オバマ米大統領

欧州歴訪中のオバマ米大統領は5日午前、訪問先のプラハ市内で演説を行い、北朝鮮長距離ミサイルに使用可能なロケットを発射したとの認識を示した。

http://www.cnn.co.jp/world/CNN200904050016.html

このような表現にしたのではないか。

ミサイルであろうとなかろうと

北朝鮮が今回打ち上げたものがミサイルであった場合、これは明確に国連安保理決議違反である。反対に、今回打ち上げたものがミサイルではなかったとしたら、これを違反というには、今回の「何か」の打ち上げはミサイル開発に転用可能である、と言わなければならない。

これは難しい。なぜなら、人工衛星に限らず、多くの技術は軍事転用が可能(というよりむしろ軍事から民生に転用したものが多い。このインターネットとか)であり、その切り分けは不可能だからだ。ミサイル転用可能だからダメと、いうのは、上で挙げた決議文を読めば問題ない(同決議でミサイル技術の開発を禁止されているのは北朝鮮だけなので)のだが、これはつまるところ「俺はOKだが、おまえはダメ」といっているわけで、説得力を持たない。

となると、今回の「何か」の打ち上げはミサイル開発の一環として行われた、ということを証明でもしない限り、説得力のある決議は出せない。なので今回の安保理では、基本的には日本のメンツを立てるためにちょっとした声明を出しておしまい、といったところではないだろうか。日本政府としては激しく抗議するカッコいい俺の画が撮れればそれでいいので。

私としては

誤報騒ぎも含めて、結局まる2日かけて大げさな(それでいてやる気のない)避難訓練を見せられたような印象だ。
きっと現場の誰もが、何かが落ちてくるとか本気で考えているわけでもなく、ただ上から自分に割り当てられた作業をこなしていただけだっただろう。壮大なマスゲーム、ご苦労様です。

ただ、本気なのか病気なのか、こんなのを発見したのでこれを叩いて結びとする。
【北ミサイル発射】「安全保障読本」(26)国家戦略そのもののミサイル防衛

北朝鮮がわが国の主権を事実上侵す暴挙に出る度に、安全保障上の課題が浮き彫りになる。

「何か」が飛んでいったのは日本の領域の上空200〜300kmだったはず。領空の縦の範囲は「地表から上で、宇宙より下(宇宙含まず)」であり、この宇宙の範囲は国際法上定まっていないため、「わが国の主権を侵す」と言い切るのはちょっと行き過ぎかと。
もう1つ。

 指摘した課題のほとんどに予算手当が絡む。だが、防衛関係費は過去7年間で2000億円以上も削られている。北に発射中止を求めるよりも、MDシステムで撃墜する方が抑止効果は高いことからも「兆単位」の負担を覚悟せねばならい。

おそらくこの記事のトピックだと思うが、これは違うだろうと私は考える。どう考えても「公式にミサイルだと言ってもいない【何か】を」MDシステムで撃墜する方が「戦争に対する」抑止効果が高いとは思えないし、むしろ促進するように思えるし、そんなものに兆単位の負担をするよりも、速やかに出すものは出して北朝鮮を会議のテーブルにつかせたほうが安全だし費用対効果も低いと考える。