どうしても二項対立に落とし込みたい橋下・産経

大阪府知事が教育問題について意見を言う討論会が開かれたというニュースを見ながら思ったことを書いてみたい。
この記事は基本的に下の産経の記事をベースにする。引用元の記載がないものはここからです。
橋下知事vs教員 教育問題討論会で渦巻く怒号、やじ
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中身に入る前に

大阪府教育委員会はこの日(と11月24日)のために合計80万枚のビラを作成、府内すべての公立小中に撒いていたらしい*1。その甲斐あってか

定員約1000人のホールは、保護者や教職員で立ち見が出る盛況。

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20081026-OYT1T00692.htm

と読売は報じている。なお、産経は上の記事で

 討論会は府教育委員会と府が主催。約700人の府民が参加し、

このように報じているが、なぜ3割も席が空いているのに一部の保護者や教職員が立ち見したのか、真相は闇の中だ。

中山成彬氏の発言はまさに正しい

 最初に日教組の組合員という女性が、「中山成彬国交相の(日教組の強いところは学力が低いという)発言について知事は『本質を突いている』と述べたが、どういうつもりか。大阪の場合、学力の問題の背景には離婚率の高さなどさまざまな背景があるはずだ」と質問した。
 これに対し橋下知事は「どんな理由があろうとも、大阪の学力が全国からするとかなり低い。そのことから逃げてはならない」と切り出し、「私には子供たちの学力を上げる責任がある。そのために知事に立候補し、当選させてもらった」と訴えた。

関東もんの私の脳内にあるステレオタイプな大阪像が正しければ、ここで会場中が盛大にコケたはずだ。
まったく答えになっていない。
産経が橋下の発言を捻じ曲げるとは思えないので、おそらく本当に彼はそう切り返したのだろう*2
この前の高校生とのときもそうだが、彼は質問に答えない。おそらく「学力が低いのは日教組のせいではない」と質問者が言えば反論したのだろう。しかし質問者は「話はそんなに単純じゃない」と言った。橋下は困った。教育問題なんか真面目に語りたくないし、ましてや語り合いたくない。彼の目的はあくまで教育問題をダシに「府民の皆様とその味方であるオレ様」v.s.「叩かれるべき者」の対立図式を演出することだけだ。というわけで、彼は逃げた。
「どんな理由があろうとも、大阪の学力が全国からするとかなり低い」そこは質問者も前提にしていて、争点となっていない。「そのことから逃げてはならない」逃げているのはお前だ。
そして「私には子供たちの学力を上げる責任がある。そのために知事に立候補し、当選させてもらった」と続くが、これはその後の「学校の先生は(学力低迷の問題について)責任を取らなくても一生公務員としてぬくぬくとやっていける」につながっていて、やはり「府民の皆様に対して責任を負うかっこいいオレ」v.s.「無責任な一部の教員」という先の二項対立に当てはめている。

トップに従わない者はクビ

 しかし発言中はヤジが多く、たまりかねた橋下知事は「まず人の話を聞きなさい。いい大人なんだから」。

うん。正しい。正しいよ。ただ、お前が言うなお前が。

 さらに「トップの方針に学校の先生が従わない。どこの会社に、社長の方針に従わない部下がいますか。そんな部下がいたらクビになる」と持論を展開、「9割の先生は一生懸命やっている。地域や家庭の皆さんが学校運営にかかわり、1割のどうしようもない先生を排除してください」と呼びかけた。

社長の方針に従わない部下はクビにするのが常識なのか。知らなかった。あ、「大阪では常識」なのかな。
それはさておき、「トップの方針に学校の先生が従わない」というのはどういうことだろうか。「橋下」と「学校の先生」の関係は「社長」と「部下」の関係と一致しない。教員は橋下の指揮下にないのだ。だからこそ「クソ教育委員会は解体すべき」なんだろう?
そして
「地域や家庭の皆さんが学校運営にかかわり、1割のどうしようもない先生を排除してください」
どこかで聞いたことがあるような台詞。懲りないなあ。弁護士資格を返上しては。

口で言って聞かないと手を出さないとしょうがない

 このほか橋下知事は「先生がちょっと子供の頭をゴッツンとしようものなら、やれ体罰だと叫ばれる。これでは教育はできない」とし、「(こうした行為を)どこまで教育と認めていくか、家庭、地域と合意を形成することが必要」と主張。

産経はちょっとおとなしいので「なくなればいい」朝日から。

一方、「口で言って聞かないと手を出さないとしょうがない」と体罰を容認する発言をした。

http://www.asahi.com/politics/update/1026/OSK200810260045.html

そうか。橋下には手を出さないとしょうがないのか。
書きたくないけど書いておく。これは「からかい半分の冗談」としての意味しか持たず、私が橋下氏に危害を加えることを予告するものではなく、また、誰かが橋下氏に対して危害を加えることを奨励したりするものでもありません。私は、橋下氏のような、暴力によって何かが達成できるという考え方に与しません。

閑話休題
「これでは教育はできない」「(こうした行為を)どこまで教育と認めていくか」ということが議論されるためには、まず体罰が子どもの教育に効果的であるかどうかの議論が行われる必要があり、そして、体罰は必要不可欠なものなのか(体罰を抜きには「教育はできない」のか)という議論が行われ、それらの合意が形成されてはじめて「どこまで」という程度の議論が始まるのである。この手のミスリードに騙されてはいけない。

産経のまとめ

 15人の発言者の一人で、職業教育の充実などを訴えた同府泉大津市の会社員、笠井大三さん(45)は「発言中のやじなど、会話の基本中の基本ができていない人がいた」と不満を口にした。

 また「冷静に話し合えない姿を子どもに見せたくはなかった」と言う小学5年の息子と訪れていた大阪府泉南市の主婦(40)は「学力テストの結果公表には賛成。社会に出て困らない人を作るために、学力を上げていかなければいけない」と橋下知事を支持。

 一方、会場で知事批判のビラを配布した教員らの団体「橋下行財政改革にNO!の会」の女性教員(55)は「結果公表でランク付けが進めば、子供たちへの悪影響は計り知れない。知事は教育現場の現実を見ていない」と話していた。

「善良な府民」v.s.「政治的に偏向した一部の教員」という二項対立。

*1:http://mainichi.jp/life/edu/news/20081021k0000e040027000c.html

*2:変換で「切り返した」が「切替した」と出た。やるなIME。