自殺そのものはスルー?

警察庁のHPにネット規制依頼の文書が出ていた。
http://www.npa.go.jp/cyber/policy/suicide/image/H2Stsutatsu.pdf


すでに報道されているとおり、「有害情報」とされるためには

硫化水素ガスの製造を誘引したと判断されるためには、硫化水素ガスの製造方法に係る情報に加えて、
○ 製造を誘引する(簡単に作れる等)
○ 利用を誘引する(簡単・確実に死ねる等)
と認められることが必要となる。

らしい。
で、なぜこれが「有害情報」なのかというと、

硫化水素ガスを製造した場合、自己以外の第三者当該ガスを吸引して健康を害し、最悪の場合、命を失うという事態を招来するおそれが極めて高く、現に、自殺目的で製造された硫化水素ガスが自殺実行者以外の第三者被害を及ぼす事案が多数発生している。
このようなことから、硫化水素ガスの製造方法を教示し、その製造を誘引する情報は、傷害という違法行為を誘引等する情報、すなわち、「硫化水素ガスの製造を誘引する」情報は、「情報自体から、違法行為を直接的かつ明示的に請負・仲介・誘引等する情報」であると整理される。

からである、らしい(強調は私)。


つまり警察庁としては、硫化水素の自殺自体の推奨はOK、だが他人を巻き込むからダメ、というスタンスらしい。なぜなら、自殺自体は「違法行為」ではなく、あくまで「傷害という違法行為を誘引」するから問題なのである。


列車飛び込みのニュースでよく見る「○○線で人身事故。○万人の足に影響」と同じような、殺伐とした印象を受ける。




そしてネット規制であるが、こういう話になると、広めたのはマスコミだろ、いやネットに書き込むのがそもそもいけないんだろ、とかいう話になって、結局、ネットとテレビは新聞における読売と朝日みたいに棲み分けがされているので、両者ともにおらが村の村益に沿った主張がなされ、それもいつの間にか終息する。


結論から言うと、どちらのせいでもないと思う。インターネットとはそもそもそういうものである。マスメディアみたいに発信者がごく少数のプロ、あとは受け手である素人集団、という図式ではない。有害っぽいから足並み揃えてなんとなく自主規制、なんか出来っこない。いろんな人がいろんな情報を垂れ流す、それを受け手側が自己の責任において規制する、それがインターネットである。表現の自由はもはや少数の人たちによって代行されるものではない。繰り返すが、それがインターネットなのである。


垂れ流し方が悪い?冒頭の警察庁の資料によれば自殺幇助そのものは問うていないのだから、では一言「ちゃんと目張りしろよ」と書いておけばOKなのか*1。「そんなに簡単ではないよ」とでも書いておけば良いのか。
そんなことで免責されるような「有害」なのだろうか。


悪いのは垂れ流された情報ではない。
なぜなら、大半の人は死んでいないし、死のうともしていない。私もテレビで見て興味本位でググった口だが、薬店に行ったりはせず、この問題について考えた。




本当の問題は、もっと根源的な「何のせいか」なのだ。


日本の自殺者は年間で32155人*2。ちょっとピンと来ないような人数である。


なぜ、死ぬのか。


もちろんそんなのは千差万別で、十把一絡げにはできないだろう。
それでも、この硫化水素自殺のニュースを見ると、個別の自殺原因にはふれず、ただ「それによって起こった二次被害」そして「ネットが原因だろう」という周辺の情報しかない。どこか「迷惑な話だよ、まったく」という他人事スタンスなのである。


なぜ、死ぬのか。

*1:実際書いてあった気がする

*2:警察庁、2006年。http://www.npa.go.jp/toukei/chiiki8/20070607.pdf